中央システム株式会社

花ならば赤く

有吉佐和子さんの小説を読了しました。
ううむ…と、色んな意味で唸ったお話でした。

あらすじ

ヒロインの晴子は、短大を出たばかり。知り合いのつてでその人のご主人が新しく手がける事業の事務のお手伝いをすることに。
その事業とは、口紅の製造と販売を手がける事。
角田と呼ばれる、パトロンのような社長の屋敷を改築し、研究所と製造用の工場を準備します。
時代は戦後。高度経済成長のはしりのような時代で、女性の社会進出が進み出した頃。そんな女性を対象とした製品、として口紅の製造と販売を決めたが、どのような色にするのか、どんな売り出し方をするのか、毎日のように活気づいている。
初めて社会に出た晴子は、そんな様子に初めははしゃいでいたが、小さな会社の中の様々な関係に悩む。
だが、晴子の思いつきで始まった虹色の口紅の開発、北海道を初めとした地方での口紅の好調な売れ行きで、会社は絶好調に。
様々な男女の機微、会社の栄枯盛衰。様々な経験の中で晴子が感じたのは…。

ドライな主人公

作品自体、かなり昔のお話です。有吉佐和子さんか鬼籍に入られて30年以上ですかね。
ヒロインの晴子は戦後生まれ…っぽいし、おそらく私の母と同世代くらいですかね。
途中の描写で、工場で働く女の子達が加山雄三にキャーキャー言ってましたし(笑)。
だから、描写のあれこれに、昭和の香りがします。まだテレビより映画の方が力があったり…。
ただ、今と昔も変わらないのは、芸能人記者はスキャンダルを追いかけてるし、男女の間は不思議なものだ、ということ。
それから、晴子のドライさは、今の女性に通じるものを感じました。
自分の恋愛なのに、かなり俯瞰して見ているところ、とか。
魔性…ではないけれど、男女のあれこれをしっていそうなのに、…時々カマトトというか、純情生娘(…という表現も微妙ですが…)のような振る舞いをする。
いい歳した、おじさんがそんなお嬢さんにふりまわされている感じがなんとも…。向こうから女が寄ってきている的な男性と、初めての一夜の後も、「こんなものか」みたいな…。
晴子はずっと「恋ってなんだろう」を考えている感じだけど、恋に恋して…みたいな夢みる夢子でもない。
口紅の宣伝に起用された女優の溺れるような恋を見ても、「ああこんな恋もあるのね、怖いわぁ」みたいに言っていても、どこかしら冷めていて。
2人目の男性も、肌を合わせてもこんなもんか、と。
それは相手が受けた感想にもでていたりして(気になる方は小説を(笑))。

今も昔も変わらない

短大出て、腰掛けのように事務をやって、ひょんな事からマネキン(モデルみたいなもの)をやってる晴子に、工場で働く女性はやっかみを。まあ、女のやっかみなんて、昭和でも平成でも令和でも変わらないというか(笑)。
それから浮気や男女の、あれこれも…まあ、今でもあるある、みたいな(笑)。

呆気ないラストにびっくり

話も凄いドラマチックな訳でなく、晴子の性格のまま、ドライに進むのですが、ラストはちょっと意外な終わりをみせます。
詳しく話すとネタバレにはなりますが、ただ、淡々とした話が、えっと言う展開でラストを知らせ、ただ、晴子らしく呆気なく終わりを迎えます。
タイトルに強調される「赤」が散りばめられてますが、鮮やかな赤が虹色に輝き、くすみ、褪せていく…。そんな感じでした。

有吉佐和子さん

個人的には「和宮様御留」しか読んだことはなく…。こちらも、ちょっと話の芯は、ええっ、というものなのに、淡々と粛々と進むのがとても面白かったです。…まあ、ifの話ですが、ちょっと歴史が絡むので、え、そんな…みたいな設定なので、かなりおすすめだったりします。
他に「紀ノ川」や「恍惚の人」、「悪女の条件」、「三婆」など、代表作は沢山あるので、ちょっと読んでみようかと思いました。

…問題は…積ん読になってる本を消化しないと…、また増えるだけ…。