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木漏れ日に泳ぐ魚

コロナ禍でイベントらしいイベントがないため、すっかりブックレビューのようになってます。…リモートワークですががっつり忙しくて、なかなかたくさん読めなかったり…、ですが、それでも少しは積ん読は減らして…マス、たぶん。

あらすじ

とあるアパートの一室。そこには、翌朝には分かれて別々の生活を歩もうとしている一組のカップルがいた。ヒロと呼ばれる男は新しい彼女と一緒に生活するために。アキと呼ばれる女は、友人とベトナム旅行に…とは言ってるが、実際は旅行に行って留守にする友人の部屋に留守番として転がり込む予定。
別々の場所で生きていく…そんな複雑な最後の夜。だが、それ以外の何かが二人の間に漂う。
最後の夜だからこそ、二人には聞きたいことがあったのだ。…あの時、あの男を殺したのは…、と。

よみどころ

「蜂蜜と遠雷」で直木賞を受賞した恩田陸さんの著作の1冊。単行本になったのが2007年となっていますから、今から10年以上前…。でも、今読んでもとても斬新な設定と、読みやすい文体で、読者をぐいぐいと引き込んでいきます。

二人芝居のような設定

ヒロ視点、アキ視点で交互に展開していきます。基本は二人が会話して、当時を思い出し、一つの事件の謎を解いていく、という感じです。その思い出す事件や、二人の過去の話をしていく中で、もちろん他に彼らの親や友人、今や昔の彼女や彼氏といった人物が現れますが、基本は二人の会話なのです。
更に、二人には、旅先で出会った男(正体はこの話のキモになるのでここではあえて伏せます)が、死んだのは相手が殺したのでは?という疑心暗鬼から始まるので、しょっぱなから奇妙な緊張があるのです。それがまた、お芝居のように感じました。

二転三転する展開

二人が疑う男とは、二人が1年ほどまえに行った山登りでの案内人の男で。二人を案内している時、崖から滑落し、死んでしまうのですが。
その男が滑落するところの記憶が曖昧になっているうえ、二人には因縁のある人物だったゆえに、ヒロもアキもずっと相手が手をかけてしまったのではないのか?という考えをずっと持ってます。
が、その話をようやく切り出し、あれこれと話していくうちに、話は思わぬ方向に展開していきます。
二人の過去、恋人としての時代から更にその前…。その話の中から真実が見えていく中で、二人の関係、特にアキの気持ちに変化が現れていきます。

意外な結末

話はミステリー風なので、結末を言ってしまうのはあまりよろしくないのですが、会話の中で導きだされた結末は、個人的には意外でした。
いや、男の死んだ理由というのが、え?とちょっと拍子抜けしたというか…。納得はしたのですが、ここまで盛り上げておいて…という感じでした。うん、でもまあ、この男、ちょっと自分勝手だから…そういう結末になるよね…。
ただ、この結末。
アキの中で納得したように終わったので、これで本当に真実なのかがはっきりしていなかったりします。
実はまだ話には続きがあるんじゃないか、そんな気持ちにさせるエンディングです。
それが、この話らしいという気持ちになるか、それとも、え?ここで終わり?となるかは、読者次第…。それが面白さでもあったりするのかもしれませんが。

舞台化

話が二人芝居のようだ、と言いましたが、実は2021年に舞台化が決定してるようです。

…このころには世間が落ち着いているといいなあ。