中央システム株式会社

罪の声

ミステリーのような、ドキュメンタリーのような…。後半、真相にせまるあたりでめちゃくちゃ震えました。お陰で久々に徹夜寸前…(笑)。

あらすじ

京都でテーラーとして働く曽根俊哉は、母が入院したとき、古いアルバムをもってきてくれ、と頼まれる。母の自室で頼まれたものを探していると、黒い手帳とカセットテープを見つける。母の持ち物としては違和感のあるそれを、俊哉は不思議に思い、そのカセットテープを聞く。それには幼いころの自分の声が入っていたが、それは、かつて『ギンガ萬堂事件』とよばれた、一連の事件で菓子メーカーの社長が誘拐された時に脅迫で使われたものだった。かの事件で自分の声が使われていたことに驚いた俊哉は、父の友人の助けを借り、なぜ自分の声が事件に関わっていたのか、真相をつけとめようとする。
一方、大日本新聞の社会部の記者・阿久津は、昭和の未解決事件を追うという、社の事業に関わることになる。取り上げられたのは、『ギンガ萬堂事件』。キツネ目の特徴ある犯人像、ざまざまな物証…があったにも関わらず、結局解決しなかったその事件。事件から30年。既に時効となり、関連する人々の口もゆるくなっては来たが、なかなか決定打が見つからない。雲をつかむような中で、ようやくつかんだ新しい証言から、事件の真相を追っていく。
お互い別の角度、別の視点から同じ事件を追っていくふたりがたどり着いた、事件の真相とは…。

昭和の未解決事件

「お菓子メーカー社長誘拐」「お菓子に青酸カリ」「警察を挑発するような犯行声明」「キツネ目の男」…。数々のキーワードから、一定の年齢の人なら、ああ、と思うでしょう。そう、あの「グリコ・森永事件」をモチーフにしているのです。

グリコ・森永事件とは

昭和59年に起きた、江崎グリコ社長の誘拐、森永製菓のお菓子への薬物混入などの「かい人20面相」を名乗る犯行グループの事件。詳しくはこちらの記事がわかりやすいので。

https://mainichi.jp/articles/20140317/mul/00m/040/023000c

キツネ目の男のモンタージュが公開された時、子供ながらに怖かったのを覚えてますね…。いや、なんかあの釣り目…こわくないですか?

お菓子の過剰包装

少し前、SNSで若い子が「日本のお菓子ってなんでこんなに過剰に包装してるの?余計なゴミになるし、やめたほうが?」っていう意見を書いたとき、この事件を知ってる人々が「こういう事件があってから個包装が増えたんだよ」と教えていたのが印象的でしたね…。そうか、もうこの事件も知らない世代が増えてきているんですね…。

ここがオススメ

実際の事件をモチーフにしていること、企業名についてはもちろん変えていますし、ある程度は資料からの作者の推測が描かれていて、こうだったかも…なフィクションですが、当時の警察の動きなど、時系列はほぼそのままの所があり、それがリアルに感じるので、ドキュメンタリーのようなテイストも感じるというのが、一番の面白さです。
また、作者の塩田さんが元新聞記者というのもあり、阿久津の事件へ追及していく姿がとても熱くて、読んでいるこちらもムネアツになります。

俊哉からの事件の追及

よくあるこういう事件追及のミステリーだと、追っていく記者の視点だけなのですが、この小説は「被害者である加害者」である俊哉の視点からも事件を追っているのが特徴です。
事の起こりは自分の声が、世間を震撼させた事件の脅迫に使われていたこと。つまり、自分が事件の一端をになっているといった意味では加害者であり。幼くてなぜそんな事になっているのかわからない。誰がどうして自分の声を録画し、利用したのか。そういう事件に巻き込まれたといった意味では被害者でもある。
そんな俊哉が、この事件が自分にどうかかわっていたのか、それを知りたいという所から、失踪した伯父がその事件に関わっているのではないか?と自分の身内に起きた事件を追っていきます。
その姿が時々痛々しく、記者として時に嫌々、時に熱く追っていく阿久津との対比もあって面白かったですね。

事件を追う

阿久津が当時の犯人や被害者、警察の動きを追うのですが、そのリアリティというか、自分も阿久津と共にその事件を追っていく感じが、読んでいるこちらもわくわくとさせてくれます。
特に、警察が犯人に一番肉薄した日を追う時は、阿久津と共に、その事件の状況を感じている気がして、わくわくしました。
しかし…某映画の「事件は会議室で起きているんじゃない。現場でおきているんだ」的なことが、この事件でもあったんですね…。あ、リアルの事件で、ですが。

事件を追う二人が出会う時

俊哉と阿久津。二人が別々に事件を追っていますが、そのため、お互いの持つ情報を読者はそれぞれ知っています。そのうちに、阿久津がその前に俊哉が追いかけた場所に向かったり、いろんな点が頭の中で線になっていく感じにドキドキしていきます。やがて二人が邂逅するときは、うわああと、なりました。
お互いが知る事件の真相。それが重なり、事件の真相がわかる…。その過程がとても面白いです。

事件の真相

実際の事件(グリコ・森永事件)の真相は結局闇の中…。なので、この小説はあくまでも推論なのですが。昭和…というより戦後最大の劇場型事件の真相はもしかしたら、本当にあっさりしたものなのかもしれないのかなあと思ったりました。2時間ドラマとか、刑事ドラマにあるような、壮絶な怨恨とか、もっと壮大なたくらみとか…とういうものではなく。
それよりも、阿久津がその過程で、真相を追及するよりも、その事件に関わった人、俊哉たちのように、巻き込まれてしまった人々がどういう思いでこの30年を過ごしていたのか、そちらのほうが本当は大事なのかもしれないと、考えていたりしますが。確かに…その事件で犯人を追うよりも、そちらを重きにしたほうが重要な事件もあるかもしれません。
実際この作品も、犯人の動機などよりも、事件に関わってしまったばかりに人生を狂わされてしまった人たちが、この後は穏やかに過ごしていてほしいと願わずにはいられない終わり方でした。
それにしても…実際にあった事件のほうの真相は本当の所どうだったのでしょうかね…。いろんな説があったりしますが、どれも信ぴょう性には欠けているような…。

映画化が楽しみ

2020年10月、この小説をもとにした映画が上映される予定です(コロナ禍で中止、とかない限り)。
俊哉役が星野源さん、阿久津役が小栗旬さん。…おお、ぴったり、かも。
他のメインの俳優さんも実力派の方々ばかり。
脚本は「アンナチュラル」や「MIU404」の野木亜希子さん。楽しみしかないです。野木さんがこの作品をどう料理するのか…。

https://tsuminokoe.jp/