中央システム株式会社

阪急電車

有川浩さんと言えば、図書館戦争や空飛ぶ広報室などがありますが、こんなのほほんとしたお話も書けるんだ、と思いました。

あらすじ

阪急電鉄のいくつかの路線の中で、宝塚から今津方面に向かう今津線。そして宝塚駅から乗り降りする人々を、ほんの少しずつ絡ませながら、進んでいく。
宝塚の図書館で見かける女性と、不意に話が出来た青年。
孫にせがまれてドッグランに行き、犬を飼おうか考える老婦人。
会社の同僚に婚約者を寝取られ、討ち入りするようにその披露宴に参加する女性。
ほんの僅かないささかいで、彼に殴られてしまった女性。
何となく隣り合わせ、意気投合する大学生の男女。
ちょっとおバカだけど、優しい社会人の彼氏をもつ女子高生。
それそれのほんの僅かな重なり合い。それを描く良作だと思います。

ここがポイント

一人のエピソード事に一駅。乗ったり降りたりするのはありますか、それをうまく絡めています。
一話になる宝塚駅は、宝塚線沿線の図書館で、よく見かける女性が、隣に座り、次の駅へ向かう車内から、武庫川の河川にできた「生」という字について話している事で知り合ったり。
次の宝塚南口駅は、裏切った婚約者の結婚披露宴が、近くの宝塚ホテルであったり、とか。
また、電車の中での僅かな会話や、不意に耳に入った話、ちょっと巻き込まれたエピソードとかで、登場人物が折り重なる妙も面白かったです。
その討ち入りした女性を見て、ドッグランに行った老婦人が、さらっと言ってくれた一言に、はっとなり、よい駅だから、と降車を勧めてくれた小林駅で、人の温かさに触れて癒されたり…。
その女性な白い服を見て、なぜ結婚披露宴で白がいけないのか、理解出来ない彼といい争いになり、結果殴られ、置いてけぼりにされた女性が、近くにいた女子高生の、自分の彼氏のおバカっぷりを笑って、でも優しいし大事にしてくれる、という話から、彼との別れを決意したり…。
主役は彼らの乗る、一本の電車。主張もなにもないし、ただ淡々と走ってるけれど、共通するのはそれ。
作者の有川浩さんか沿線の人、というのがありますが、この「阪急電車」というのも、大事なエッセンスなんじゃないでしょうか。
何となく…東武線とか西武線とか京急線とかだったら、もっと派手だったり、もっとスリリングだったかもしれない(笑)。
阪急電車のあの茶色というか、臙脂色というか…の車両、中もちょっとレトリックだし。
あのまったりとした空気…だから、こういうお話を生んだんだと思いますね。
怒涛のような事件やエピソードが起きる話も面白いですが、こういう、穏やかな日常の1ページ的な話もまた、良いと思いました。

おまけ

小説の中で、討ち入り(笑)現場になってしまったり、香害おばさんズが急遽行先変更で行く事になったりと、ある意味災厄を引き受けていた宝塚ホテル。
ヅカファンゆえ、何度もお世話になりました(笑)。
初めて行った時は、宝塚から電車に乗って。宝塚駅を出ると、高架のまま、花のみちを沿うように進み、上から楽屋口が眺められます(笑)。あ、⚫⚫さん楽屋にはいられた、とか…、あの行ってらっしゃいなシーンも。宝塚ファミリーランドがあった時は、遊園地のひとつのアトラクションみたいに見えました。小説はさらに後…ファミリーランドが取り壊され、ガーデンになった頃なのが残念。
そして宝塚南口を出て、ホテルに。
外観も洋風で美しく、料理も美味しくて。壁に宝塚大劇場で使用していた緞帳が貼られていたり、ファンには御用達。大劇場から徒歩も可能…。大劇場が宝塚と宝塚南口の真ん中辺りでしたし。劇場から向かうと楽屋口、手塚治虫記念館、音楽学校などを見ながら宝塚大橋を渡り…。宝塚を満喫できました。
ワシントンホテルもいいホテルで、宝塚駅近くで利便性も高くて良いですが、やっぱり宝塚来たなぁを感じるのは宝塚ホテルでした。
ただ、建物の老朽化には抗えず、宝塚大劇場の隣に移転されることに。新しい場所は更に宝塚歌劇のためって感じ…ですかね。
うーん、移転前にもう一度宿泊したかったかも。
そして、宝塚ホテルといえばプリンで。高校野球のお仕事で主人が甲子園に行くと、時々買ってきてくれます(笑)。兵庫県内のサービスエリアで売っているらしく、とても美味しくて懐かしい味がしました。また買ってきて欲しいので、浦和学院さん、頑張ってください(笑)。