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一度きりの大泉の話

幼いころから本が好きで、小説もコミックもなんでも読んでいる人間として、当たり前に履修している萩尾望都先生の自叙伝が刊行されていたので、読んでみました。
読後、気持ちが複雑になりました…。そうか…。

大泉サロン

「トキワ荘」という、漫画の聖地があります。手塚治虫先生を中心として、日本の漫画界の大先生を輩出したという伝説のアパート。藤子不二雄両先生やら、赤塚不二夫先生、石ノ森章太郎先生などなど。。。当時の先生方は少女を対象としたコミックも描いていますが、ほぼ男性(水野英子先生がいらっしゃいましたが)で、少年・青年コミックでの活躍が多い方ばかりでした。
では少女コミックでそんな場所はなかったのか、というと、実は数年で解散しましたが、そういう場所がありました。
それが、この「大泉サロン」です。
著者である萩尾先生、竹宮恵子先生、山岸涼子先生などなど…。女性誌で大御所と呼ばれる方々のお名前がとても多くて…。
マンガ好きならよく知られているこのサロンですが、トキワ荘程有名でもない。ネームバリューもすごいのに…。結構知る人ぞ知る、のような話であるのが、ずっと謎でしたが、読後、ああ、そういう事なんだ、と思いました。

本の内容はこんな感じ

萩尾先生が漫画家を志し、上京するか迷っているとき、一緒に住まないか?といった誘いを受けた頃から、大泉のその家が解散し、その後のいきさつなどを思ったそのままに記録にした、といった感じです。

進路を反対されて

今でも漫画家になるといったら、困惑されてしまうでしょう。才能が問われる職業ですし、安定したものでもないし。それが萩尾先生がデビューするかの頃(昭和40年代)では、もっと眉を顰められるでしょう。手塚治虫など、突出した人が現われても、やはりよくわからない職業ですからね。
投稿等もされている時、知人のつてで竹宮恵子先生と出会い、今、引っ越しを考えている。家賃折半で家を借りて東京で仕事をしないか、と誘われます。そして、それに賛同して、上京しデビューするのです。

大泉時代

お世話になっていた出版社(講談社)から新しい出版社(小学館)へ変わり、徐々に仕事が増えていきます。
この時代、「ポーの一族」の1作目や「11月のギムナジウム」など、今でも名作と名高い作品を書かれていたようです。
そして、このころ知ったのが『少年愛』。
その頃、ウィーン少年合唱団や、名作映画「ベニスに死す」が流行し…。美少年ブームの中で、そういうのに敏感な漫画家さんが熱狂…。今でいうBLのハシリが生まれます。
萩尾先生はその美しさには惹かれていたけれど、そこから「美しい少年同士の愛」については理解ができなかった、とありました。
…なるほど。
これは、個人的な思いだったのですが、「11月の~」や「ポー~」、そして「トーマの心臓」を読んでも、そこにBL感は感じませんでした。人間(ポーの一族はヴァンパイアですが)愛は感じましたが…。耽美的だけど、ちょっとBLとは違う、と感じたのは、その辺りの先生の考えが反映されていたのかもしれません。

サロンの解散

誘われて一緒に生活をして、色々な事を共有…していたはずなのに、どこかからボタンを掛け違ったように…。
そのいきさつについては、…本を是非に。ただ…色々残念だなあと思いました。

大御所様のお名前が…

この時代に交流のあった大御所の漫画家のセンセイがたのお名前がたくさん出てきて、おおっとなります。
木原敏江センセイとか山岸涼子センセイとか…。
出版社の脚注に先生方の概要と代表作も書いていますので、気になる人は是非読んでいただきたく。。
木原先生の「摩利と新吾」、山岸先生の「日出づる処の天子」は、今でも超名作ですし(…男性にはちょっと敷居が高い系ジャンルですが(笑))。

一体何があったのか

仲良しだった人たちが、何故解散までに至ったのか…。萩尾先生は「」と分析していましたが、なるほどなあと思いました。
ただ、ただ、スケッチブックを見た。そこに似ていたシチュエーションがあった。それが、「そこは私の領域だから入ってこないで!」となるのは、致し方ない…のかもしれません。
元々この時代の「少年愛」って、思う側も想う側への執着ともいえる愛が…なところも多く(あくまで個人的な感覚ですが)、そういった感情は作者の考えが反映されているのかも…。
ただ…萩尾先生にはただの偶然だったのでしょうから、言われた側としてはショックだったんだろうな…と思いましす。過剰な反応過ぎて戸惑うもの当たり前というか…。
そして、それが尾を引きずって、対人関係に支障をきたすというのも…。

一方から見えないので

この話は、萩尾先生サイドからのお話なので、竹宮恵子先生も本で書かれているらしいので、読んでみようかと思いました。一方からの話では分からないところもあるし、こういう人間関係は色々な方向から見るべきなのか、と。
ただ、すべてを知るのはご本人たちも、当時関わっていた方も、もちろん私たち読者も難しいでしょうね…。
多分、考え方も思いも、当事者同士も違っていますし…流れたときの分だけ、色々と変わっているところもありますからねえ…。
この本を読んでいてもやっとしたのは、その人間関係のところでしたし。
萩尾先生のマネージャーのこの一言が、腑に落ちた気がします。

覆水盆に返らず

結局は…この本を書き上げた時点で萩尾先生はもう大泉の話はしない、という事なので…もうこれ以上追及はされないかもしれませんかね…先生がたがご存命の間は特に…。
ただ思うのは…大泉の事が、トキワ荘のように先生方にもファンにも大事な場所や思い出になっていなく、このまま埋もれてしまうような感じが残念な気がします。

先生方の作品を読もう

作品は先生方の分身…なので、その当時の作品を読んで…理解…は難しくとも、どんな気持ちで描いていたのか、は想像できるかもしれません。
そういえば…今はBがLする作品は書店などでも大々的にコーナーが設けられていたりしますが、実は一般受けというか、永遠の名著的な作品はこの時代のほうが多いかもしれません、個人的には。

竹宮惠子先生なら、やはり「風と木の詩」ですよね。ジルベール。ドラマにもなった「きのう何食べた?」の登場人物が、似ているから、とさらっと言われるくらい、この作品は影響力あるのかなぁと思います。

木原敏江先生といえば「摩利と新吾」…BがLする話…ううむ…なんですが、ジャンルとしてはそちらに分類なのか…。個人的にはブロマンスなのかなぁと思いますが。木原敏江先生はその他にも、大江山花伝とか、アンジェリークとか、男女の名作もりますよ。

山岸凉子先生は、「日出処の天子」。聖徳太子の話…てす。すごく価値観変わりそう…な厩戸皇子なんですけどね(笑)。しかしまあ…高校の図書館にありましたから…(とりあえず私が通ってた時は母校は進学校…)。

萩尾望都先生も、今ならブロマンスなんじゃないかしら…「トーマの心臓」も「ポーの一族」も。美しくて儚くて…な展開や結末は、どれも良いです。「11月のギムナジウム」も。

うん、いつか…このころの話ができるのを祈りながら…。