中央システム株式会社

総理の夫

映画化もされました、原田マハさんの長編小説です。とても意欲的で面白かったです。
まだまだそういう立場になる人が出る雰囲気ではないですが、いずれは…と。政治のお話で堅いかと思いがちですが、思ったよりライトです。

あらすじ

鳥類学者の相馬日和の妻、凛子が第111代の総理大臣に任命される。「日本初の女性総理誕生」に沸く世間を見ながら、妻を支えていこうと考える日和。自分の仕事をしながら、忙しくなる妻のサポートを、と思っていたが、「初のファースト・ジェントルマン」となった自分の立場に目まぐるしく変わっていく。
そして、学者として日誌をつけていた日和は、初の女性総理がどうであったか、を記しておくため、書き留めていくことに。
だが、元は少数政党の党首に過ぎなかった彼女が総理になったのは、与党の凋落と最大野党の後押しなどがあった。そのため、就任直後から様々な問題が現われる。
政治的な様々な問題もあるが、それ以外にも。
日和は、日本でも有数の資産家の一族の次男坊。そのため実家から家の為に動いて欲しいと請われたり。
日和に美人局のようなスキャンダル騒動が起きてしまったり。
そして、政治的に最大の危機も訪れ…。

夫婦で困難を乗り越えていく政治エンタメ

中々に分厚い本ですが、とりあえず1冊に収まっている本ですが…なかなかに様々なものが詰め込まれていました。

夫婦で問題をクリアしていく家族の物語

凛子が総理になり、環境が変わる夫婦生活。生活していた家から公邸に転居。日和にもSPがつくような日々。
そして多忙な彼女と生活がすれ違っていく。それでも日和は凛子を愛していたが、そういう生活に隙が生じて住カンダルが発生。
なんとかもみ消したけれど、それは政治的に作り出されたもの。元々学者としてふわふわ生きていた日和の隙を狙ったものだけれど、結局は二人の問題として解決していきます。
実際、まあ政治家になったら、メディアのスキャンダルの標的にはなりますからねえ、リアルの生活でも。
ただ、日和と凛子の夫婦の絆は鉄板で。
それがあるから、少しはハラハラしても、他の要素を十分に楽しめました。

見事な政治エンタメ

凛子が総理になった経緯は、少数ながらも1党の党首だから。彼女の人気もありましたが、その背後には与党から離れ、最大野党を作った人物が背景にいたため。いわゆる野党連合というものです。
そうなると、最大野党側は凛子に自分たちの都合のいい組閣等を押し付けていきます。これもまた一つの政治なのですが…、正直それっていいのと思いました。しかも、そこから日和のスキャンダルや、凛子の政策へのわざとらしい反対などがあり…、「やはり彼女(女性)では無理なのでは?」という空気を作ります。
つまり、彼女の人気を利用し、最大勢力である与党の力を削ぎ、さらに彼女を貶めた所で追い出し、自分がトップに立つ、という流れを考えていたのです。
その人物が、よくある大物政治家で、見事な狸ぶりを演じています。
味方だったものが、結局は敵に。
そんなドキドキの展開で、追いつめられていく凛子。けれど、見事な戦法で切り抜けていきます。
この当たりはかなりスカッとしました。

リアルの問題とリンク

凛子が就任した世界観の日本も、今の日本で起きている問題があります。
社会保障、景気、そして少子化…。
そんな問題を総理として彼女はどう解決していくのか。それを本人ではなく、政治家や秘書といったものではなく、本業は一般人だけど、総理の夫という立場の日和から見ているのが、この作品の面白い所です。
しかもラストは夫婦ゆえの問題が発生しています。
ただ、政治家としては若い凛子ですが…女性としてはそこそこの年齢の凛子。
少子化の問題、高齢出産、そして働く女性の妊娠。色々な問題が盛り込まれています。
ただ、この辺りがちょっとさらっと解決されてしまったのが、個人的にはちょっと残念でした。まあ、あまりゴテゴテと書くようなものではないのですけどね。

個人的には続きが読みたい

ニュージーランドのトップは女性であり、今も在任していらっしゃいますが、その立場にいる中で妊娠・出産を経験しています。
日本でも議員では妊娠から出産をされた方はいらっしゃいますが、総理…はそもそも女性はまだいませんし、大臣クラスでも、現役の人が、というのはありません。
…まあ、大臣になるのがまだ男性が多いし、それなりの年齢の人が多い日本では、女性がそんな立場に就くのはまだまだファンタジーのような話ですが。
なので、母になった凛子が政治家としてどう活躍していくのか、そして、そんな凛子を日和は夫としてどう支えていくのか、を読んでみたいと思いました。
原田マハさんの政治エンタメは読みやすくて面白いので、特に。

映画化されてます

この「総理の夫」ですが、映画化されています。コロナ禍で見に行けず終いでしたが…。
田中圭さんが日和、中谷美紀さんが凛子でした。

https://first-gentleman.jp/

今はAmazonPrimeでも見られるようですね。見てみたいと思います。
キャスト的には、原作のイメージ通りなんですけどね…。ただ、原作を知っていると不安になる映画化…。