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二十歳の原点

最近何故か注目を浴びているとか。人生で一番感受性の強い時期に何をどう考え、生きるのか、それを考えさせられる一冊です。

どんな内容

時代は安保闘争期。学生運動が盛んな時期に、立命館大学に在学していた高野悦子さんという学生の日記。二十歳で鉄道自殺した彼女の遺族が、彼女が何を考え、どう生きてきたのか、それを伝えるために書籍にしました。学生運動、恋…様々な経験について、清冽で真っ直ぐに深く考えながら書いている日記は、たしかに今だからこそ、読むべき本…なんでしょう。

『独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である』

高野悦子さんの誕生日の日記で、本のタイトルになった、あまりにも有名なフレーズです。自分は二十歳だった時、さて、こんなに深い考えに至っていただろうか…とちょっと恥ずかしくなりました(笑)。未熟であること、は分かる気がします。一応日本語では二十歳が成人…となりますか、その誕生日になって、さあ大人の仲間入りですよー、でまず考えるのは、お酒が飲める、タバコが吸える…そんな権利のほうになるのが普通だし、それが一般の若者の考え。…でも、権利には義務が伴うもの。お酒を飲んで周囲に迷惑をかけてはいけない、マナーを守るという義務を忘れてはいけません。そういう所まで思いいたらない…と例えが悪いですが、そういうまだ未成熟なところがたしかに20歳ではあります。その点はわかる気がします。
が、独り…高野悦子さんは大学に通うために一人暮らしをしていますが、それ…を言ってる訳ではなく…。それから一年も満たないで鉄道自殺をはかっている辺り、彼女の心のなかに何があったのか、かなり気になりますね。

『旅に出よう』

日記の最後のこのフレーズも、この後を考えるとかなり意味深です。彼女の言う旅とは一体なんだったのでしょうか…。本当に黄泉への旅路だったのか、それともまた別の意味だったのでしょうか…。

学生運動

高野悦子さんは京都の大学ですが、時代背景には安保闘争、学生運動があります。折しも東大安田講堂など、今でも語られる激しい学生の戦い…。高野悦子さんも影響を受けて、この運動にのめり込んでいたようです。今の日本の大学では考えられない程熱い…。そんな馬鹿な事しないで、自由な時間を満喫して…という今の大学のありようを否定はしませんし、この学生運動が本当に良かったとはあまり思えませんが、ただ、若いからこそ国を憂い、自分達で何をすべきかを真剣に考えた、その思いのほんのわずかでも持つべきなんじゃないか、と思いました。
余談ですが、某テレビ局の保管していたフィルムの中に、当時の東大の学生運動のリーダー格と作家の三島由紀夫の討論を映しているのが、先日発見され、流していました。学生運動もただ闇雲に反対していたわけでなく、自分達なりに何がいけなくて、何をすべきか考えていて、あの三島由紀夫に負けずに論じていました。二人ともとても良い意味で熱く討論し、最後はお互いの健闘に握手を交わしていました。あの映像はノンストップで見ていたい位凄かったです。そういう時代だった、と一言で言ってしまえばそれまでなんですが。

20歳の原点

学生運動以外にも、…いわゆる貧乏学生らしい生活の話や、恋の話など、濃すぎる半年の日々が日記に綴られています。当時の学生のありかたがわかる…。ただ、なぜこんな考えかたをした女性が、なぜ自殺を考えたのか…。生きていれば、もっと何かをしていたのでは、とか考えると本当に悔やまれますが、深く考えるからこそ、そういう結論に至ってしまったのでしょうね。
この本は、高野悦子さんが亡くなった後、遺族が出版しましたが、彼女の生きた証を遺したかったのは勿論でしょうが、彼女の思いを通じて、同じ悩みを持つ人の指針になれば、と思ったのでしょう。
また、この時期、おなじく学生運動に身を投じ、その最中に亡くなってしまった樺美智子さんという方がいらっしゃいます。彼女の日記も出版されていますが、学生運動を若さゆえの暴挙と取るか、国を憂う若者達の叫びととるか…人それぞれでしょうが、私は後者に感じました。

色々な形で

二十歳の原点は、本編の他に序章、ノートという、高野悦子さんのまだ中学生の頃からの日記も本になってます。
また、最近、読みやすいようにコミックにもなりました。こちらは、現代の女の子がタイムスリップして、高野悦子さんに会う…という、ちょっとファンタジーな設定ですが、その女の子の視点から俯瞰するように描かれていて面白いです。原作?だと少し哲学的で難しく感じる事も、優しく噛み砕かれてますので、ちょっとオススメです。
更に…かなり昔、映画化もされたようです。DVDなどになっているかは分かりませんが、一度見てみたいものです。
そして、もし、学生運動に興味をもったら、樺美智子さんの遺稿集も是非。
今でもあの学生運動は、賛否両論ありますが、日本の若者の政治に対して熱かった時代もあったんですよね。