中央システム株式会社

みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史

たまには本職の本を読んでみたりします。
正式名称は
史上最大のITプロジェクト「三度目の正直」みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史
です。
昨年出版された本なのですが、詰んだままになっていました…。今回色々ありましたので、取り上げてみたいと思います。

史上最大のITプロジェクト

本のざっくりとした内容は、タイトルどおりです。
みずほ銀行のシステム統合についてどのような経緯があったのかについて、その成功から失敗までをレポートしています。
システム開発のサグダラファミリアとまで言われたこの統合は…色々話を伺っています。同じ業界なので。
本の内容は2020年の統合完了から、2002年のみずほ銀行発足時に時間をさかのぼり、なぜそのような事になったのかが書かれています。
…まあ、システム開発にあたっての悪手の典型が描かれているので、これを反面教師にして…日本のIT業界が発展していけたらいい…と思います、はい。
いったいなぜそうなったのか、内容をざっくりと紹介します。
本とは逆に、2002年から辿ってみたいと思います。

都市銀行の統合

今はメガバンク3行(みずほ、三井住友、三菱UFJ)と準メガバンク(りそな)と大体大きな銀行グループはこれくらいですが、当時は各銀行は統合前だったので、「都市銀行」は10行近くありました。
余談ですが、私が学校卒業後に入社した企業のメインバンクは「三和銀行」でした。この三和銀行、その後いくつかの銀行と統合し、「UFJ銀行」になりました。その後、弊社に入社し、口座を新設したのが「東京三菱」だったのですが…。この2銀行が統合し、『三菱UFJ』になりました。…おかげで同じ銀行に2口座を持つことに…。多分そういう人はこの統合アレコレで同じような経験をした方は結構いたのではないでしょうか。
閑話休題。
みずほ銀行も『第一勧業銀行』『富士銀行』『日本興業銀行』の3行が統合され、『みずほ銀行』が発足しました。
さて、銀行…というか、企業が統合する時、IT的なものも含め、どのシステムを活用し、どのように運用していくかという事になりますが…。この統合にも色々とあったようです。

当時の大混乱

2002年4月。当時日本最大級のメガバンク、みずほ銀行が動き出したのですが…。
日本中を混乱させるシステム障害が発生してしまいます。
ATMでお金が引き出せない、振り込みができないなどなど…。
パニックはしばらく続き、みずほ…というか、統合元の3行の口座を持っていた人たちの阿鼻叫喚が日本中に響きわたっていました。
その頃、懇意にしていた仕事仲間の方が作業してるフロアに、このみずほのシステム統合に関わっているグループがあったそうで…。そのグループの場所は、通夜どころでなく、とにかく近寄るな、危険…な感じだったと聞いたことがありました。…まあ、そりゃそうなりますよね。。。

2011年の障害

某テレビ局の東日本大震災の義援金の口座に指定されていたところ、あまりにも振り込みが多く、その処理に時間がかかり、そのため通常の振り込み等まで遅延してしまったという事が発生しました。
個人的にはこの年はやはり東日本大震災の記憶があったので、この件は記憶にないのですが。
本を読んでいると、障害が起きたとき、どうリカバリするか、その手順と判断を誤ると…のようで、運用の重要性を痛感しました。

19年かけて

そして1昨年前、色々あった銀行のシステム統合はようやく完了を迎えました。
今までの反省などを踏まえ、慎重に慎重を重ね、3連休を利用し、その都度各種システムを停止し、大掛かりに移行作業を行っていました。
ニュースや宣伝等でこの件をよくやっていたので記憶にある方も多いかと思いますが…。
システムに携わる人には、この移行は慎重だな、と思う程度だったんですが、一般的にはこんなになんで時間がかかるんだ、という感じだったようで…。主人がたまたまみずほに口座を持っていたので、このシステム停止についての案内のはがきが届いたのですが、それを見て、「なんでこんなに停止するんだろう?」と尋ねてきました…。

トラブルの原因

2002年と2011年では、その要因は異なりますが…、日本のIT業界の問題を色々浮彫にしています。
この本を読了後、色々考えさせられました。

無理な計画を立てる

スケジュール、人月、システムの概要等も含め無理な計画は、破綻をきたす一因となります。
が、なぜか色々と無理をするようなプロジェクトが多い気がします。みずほ銀行の2002年の障害も、そういった無理が結局大きな障害となってしまっていたようです。
スケジュールを焦って無理やり詰め込み、実行すれば、どこかに破綻が生じるのは当たり前で。
結局余計な人月をかけてしまう結果になるんですよね…。

トラブル発生時の運用

2011年の障害時は様々な不手際、判断ミスがあった、と本には記載されていました。詳細は割愛しますが、「こういうトラブルがあった時にはこう対処すべき」という事を想定して動くことが大事だと思いました。
運用は監視等の通常のものだけではなく、バッチの流れが止まっている、予定していた作業が実施されていないなどといった動きのミスがあった時にどう、動くか、想定外な事が起きたときに報告をどうするのかなど、も含まれるはずで…。そういった事をマニュアル化しておけば、なにかあった時に最小限でトラブルが完結するはずなので。

失敗から学ぶ

ようやく完成した「IT業界のサグダラファミリア」ですが、紆余曲折あって、色々な問題もあった訳で。
成功した事例よりも、この紆余曲折のほうが大事だと思います。
それは、「転ばぬ先の杖」となり、もし、そういった事に自分がまきこまれた時の指針になります。
うまくいきましたが、この1年をかけたシステム移行では、ユーザーである顧客や、システムを利用する社員の方々の協力・迷惑があったからできたわけですし。当初想定していた負担以上の事を結局負わせていたのだと思います。
そういった事を考えると、このみずほ銀行のシステム移行プロジェクトは、今後の日本のIT業界にはよい教科書になったのだと思います。
ここから学んで…ほしいですね、色々(遠い目)。
非IT系の友人からは、「システムってよく変わるんだけど、そのたびに覚えることが変わるし、変わったらトラブル起きやすいし」…とか言われると、業界人としてはちょっと反応しずらいですしね…。
よりよいシステムの構築…それは私たちが常に考えていかなければならないことだと、この本を読んで実感しました

余談。。。

さて、冒頭では、こんなに頑張ってなんとか成功した。。。とうたわれていた、みずほ銀行のシステムですが。。。つい先だって、また色々トラブルが起きたようで…。まあ、ニュースで聴いた概要しか知らないので、どうこう言えないのですが…まあ…なんでそこを想定していなかったとか、ちょっとしたヒューマンエラー的な事も感じることがあり…。その時の対応も含めて、本1冊ができるくらいの反省は活きているのだろうかと…つい考えてしまいました。。
しかし…この本を読んでいる時にそういうトラブルが起きるとか、ちょっとタイミングがよすぎやしませんかね(笑)。