中央システム株式会社

星を掬う

町田その子さんの新作ですが、色々と思いを巡らせてしまいました。
大なり小なり、「娘」として生まれていれば考える事だなあと。逆に考えた事がない人は、ちょっとうらやましいかも。

あらすじ

主人公の千鶴は、DVされていた夫から逃げるように生活していた。だが、その夫は千鶴の居場所を特定し、家や働いている工場まで押しかけて金をせびり、自分が納得いかないと、千鶴に暴力をふるっていた。
逃げたい、とそう思った時、ラジオの企画に投稿したものが入賞された。自分の思い出を書いたそれはラジオ局が買い取り、匿名で放送される。そして、それを聞いたリスナーが千鶴を訪ねてきたのだ。
「この話の投稿者は千鶴さんではないですか?」と。
その人物は、その投稿された内容と同じような思い出を持つ人を知っている、という。その思い出とは幼い千鶴と母の思い出…。幼い頃、父と離婚したのだが、その直前、父の実家から逃げるように母・聖子と旅をしたその思い出。知っているのは母だけなので、その人物は母と思われた。
そして、ラジオ局の担当者の計らいでその訪ねてきた女性・恵真と会う日、千鶴はDVによるケガを負ってしまっていた。それを見かねた 恵真 から、夫から逃れるなら、自分たちの所に来ないか、提案される。
躊躇う千鶴だったが、夫からの暴力から逃れるため、また、別れた母との再会はどうなるのか…。色々考えた末にお世話になることに。
恵真 の住む「さざめきハイツ」には、そのほかにも彩子という女性がいた。ハイツの家事全般を取り仕切る彼女も色々と訳ありのようで。
様々な過去を持つ4人の女性の奇妙な同居生活は、千鶴にも、同居する彼女たちにも変化をもたらし…。

ここまで不幸か…。

主人公の千鶴を含め、ハイツに住む女性の過去は、不幸のオンパレードで…。ただ、その不幸は親子関係…特に母親と関係の躓きのような共感するようなつながりがありました。

千鶴の場合

主人公の千鶴は、幼い頃両親が離婚。父方の引き取られるが、厳格な祖母に厳しくしつけられ、父も高校生の時に死亡。かつてはそれなりの資産があったが、祖母との二人暮らしの中で枯渇。結婚した相手は起業するが失敗だらけで借金を作りまくり、生活が荒み、DV夫となる…。と、本当にここまで、といった位に不幸の連鎖が続く人生でした。

聖子の場合

千鶴の母、聖子は母親と「友達親子」と言われるくらい、仲が良く見えていました。が、それは母からの束縛に過ぎませんでした。そして、その決めつけるような束縛から離れられず、それが楔となっていたのですが。千鶴と再会する少し前から若年性痴呆症となって、その様子が変わってしまっています。

恵真の場合

幼いころに両親を事故で亡くしてしまい、天涯孤独に。どこでも厄介者扱いされていたため、ハイツが拠り所なところがあります。そして、あることをきっかけに、男性不振な所も。美容師として腕は良いですが、あまり写真に写りたくもなく、その辺りは過敏になっています。

彩子の場合

結婚し、子供を産みますが、肥立ちが悪く、子育てがままならなくなってしまいます。それは仕方ないのですが、子育てを義母に任せていたら、娘はすっかり義母になつき、母親を母親と思わなくなってしまってしまいます。そしてそこから歯車が狂い、離婚し、家を出るという…本人にはどうしようもない展開で独りでいました。
そして、その娘は離婚した父側についていったのですが、父親の再婚等で家庭内不和を起こし、未成年で妊娠し、不本意のように彩子を頼ってきています。

母と娘と

私個人は、母親と不仲ではいし、趣味も似ているので、そこそこ仲がいいほうです。
でも、やっぱり親といっても他人なので、衝突することもあるし、お互い理解できない事があります。
女だから、分かることがある。けれど、分かるゆえに衝突があったりします。
それが普通だと思うのですが、この作品の母と娘は色々と特殊な関係となっています。離婚で離れてしまったので、そのブランクもあるのでしょう。けれど、幼い頃の記憶は段々別のものが刷り込まれ、お互いの思いとは別のベクトルへと感情が離れていってしまうのが、読んでいてつらかったです。
色々とどうしようもなかったし、そこからの人生も、そうならざるを 経なかった。ただ、その「ならざるを経なかった」人生がなぜそこまでの連鎖になるのか…。
離れて生活し、流れた分の時間だけ溝も深くなり、特に千鶴は、聖子が痴呆症で感情の起伏が激しく、なぜかつらく当たられてしまい、そこでもまたすれ違う…。
それは彩子も同じだったりしますが、本当に…本当にわずかな誤解なんですよね…でも、本人たちにはそこでできた溝は段々深くなっていって…。
親だから子供の事をすべて分かるわけではない。その逆も。
そして分かり合おうとする事がさらに誤解されていったり…。
でも、分かり合う努力をしないと、分からないこともある。そう考えさせられました。
母にも薦めて、感想をきこうかしら。

怒涛の展開

彩子の娘が転がり込むように「さざめきハイツ」にやってきてから、話は色々急展開していきます。
それまでも色々あったりしますが、それでもバランスよくなんとかやってきたものが、一気に瓦解する、そんな感じで。そして、それは思わぬ展開へと。
この辺りはとても読みごたえがあるので、是非実際に読んで欲しいです。
ただ…ラストに思うのは、今までこれだけ必死に生きた登場人物のこれからが幸せであって欲しいと。。
それを願ってしまいます。

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作者の町田その子さんといえば、こちら。

昨年の読者大賞となったこの作品。本当に良い作品です。もういちど読み返したい作品って言えるくらいオススメです。
どんなお話かは、記事を是非。
すっかりファンになってまして。
何作か未読の作品がありますので、これから読んでいくのが楽しみです。