中央システム株式会社 - 東新宿の方です

ライオンのおやつ

コロナ禍でイベント関連がないので、すっかりブックレビューばかりですが…。
最近選んだ本はみんな素晴らしい本ばかりで、今回も一生モノの本に出逢えた、そんな感じでした。

あらすじ

ヒロインの雫は、クリスマスに瀬戸内のとある島にやってきた。彼女を待っていたのは「マドンナ」と呼ばれる女性。彼女の経営するホスピスを…終の棲家にするために来たのだ。
自分の命の終わりを知り、その最期を海の見える場所で。そう思いやってきたそのホスピスの名前はライオンの家。
彼女と同じくそこを最後の家にする人たち、食事を世話する女性たち、ボランティアで絵や音楽で癒しを与える人々、島でワインを作っている人。
命の終わりに様々な人々と出会い、その中で彼女の30数年の人生を振り返っていく。そして、その日を迎えようとするとき、彼女が考えたこととは…。

いのちのものがたり

一言で言ったらそうなんですが、その深さにただただ涙です。

醍醐味

コロナ禍の初期、牛乳の余剰問題から、SNSで話題になっていた「蘇」。
単純に牛乳をじっくり煮詰めていって、焦がさないようにキャラメル状になったものですが。その上手さから「醍醐」…つまり醍醐味の語源となる、なんとも言えないものができるそうです。…チャレンジしようかと思いましたが、3時間も煮詰めるとかちょっとできない…と私はしませんでしたが。
このお話では、雫はライオンの家に来てすぐに食べることになったのですが、その感想が「神様の母乳」だそうで。…平安の人がその旨さから「醍醐」と呼んだのもなるほど…。
ただ、神さま…命の終わりが見えた人の感想と思うと、少しもの悲しくなります。

おやつの時間

ライオンの家では日曜日、リクエストの中からマドンナが抽選で選んだエピソードのおやつが登場します。ただ、そのリクエストに選ばれたからといって、本人が食べられるかは…なのですが。
幸せの中で味わったもの、後悔や苦みと共にしたもの、夢に描いたもの…。その人の人生を彩った味を皆で味わう時間…。
記憶にある味というのは、それぞれにあると思います。それを最後に食べたい、食べてほしい。そういう気持ちは切なくなります。

生きたい、という気持ち、最期を迎えるココロ

「ステージ」という言葉がでてくるということは、雫は末期がんなのですが。物語の最初では島に来て、家で飼われていた六花という犬の散歩に行き、タヒチくんという、島でワインを作っている青年とデートのようなことも…ですが、病は確実に体を蝕んでいきます。体に痛みが伴い、歩けなくなり、ベッドから起き上がることもつらくなり、そして食事もままならなくなる…。
余命を知らされた時から、淡々とその最期を考えていた雫も、その変化を受け入れながらも、もっと生きたいと願い、そして、生きるとは、そして死とは…と考えていくのです。

必ず等しく全員が迎えるもの

雫は両親を事故で亡くし、母方の叔父に育てられます。父親のように二人で生活していたけれど、高校生のときに、その叔父が結婚することに。
結婚相手も雫を受け入れ、一緒に暮らそうと提案してきたが、雫は独立を選びます。そして、自分が死を迎える時も、その知らせをせずにいます。
ライオンの家には雫のように、様々な人生を送り、その最期を迎えていきます。
死は貧富や身分などに関係なく、等しく全員が迎えるものです。
長生きをして大往生を迎える人もいたり、雫のように…またはもっと若い年齢でそれを迎えるものです。
それをいつ、どのように迎えるのか…、病なのか雫の両親のようにいきなり事故などで迎えるのかは…わかりませんが。
小説の最後は雫の命が終わるとき、なのですが、彼女を通して、彼女にかかわる人々が雫の死から色々感じた事を描いています…。読みきったとき、号泣とともに、そういう、誰かの心に何かを留められるような、そんな幸せで終われたら理想だな、と思いました。

小川糸さん

ライオンのおやつで3冊目なのですが、どの作品もなにかドラマチックな展開とはハラハラドキドキな展開…ではなくて、普通の日常を切り取った、そんな感じの物語だったりします。だけど、そんな話のほうが実は難しいわけで。
淡々と描かれる日常なんて、自分たちが普段生活していることと何ら変わりないから、、じゃあどうなる?というわくわくでよませるものではないですから。
だけど、小川さんはそんな日常なのに、ああ、そうだ、そうなんだよねって思わせて感がさせてくれる感じで、あっという間に読んでしまいます。
だから、大体1日で読み切ってしまう(笑)。
それから、前回読んだ「あつあつを召し上がれ」もですが、食べることの描写が美味しそうなのです。もう一冊読んだ「ツバキ文具店」のですが、ああ、なんかこれ食べたいなあと思わせるのです。
それも、高級フレンチとか、イタリアンがどうとかではない、日常の普通のご飯。
「あつあつを召し上がれ」を読んだときはお味噌汁を飲みたくなりましたし、この「ライオンのおやつ」ではお菓子もですが、御粥が食べたくなりました…。
それからもう一つ。
命について。
「あつあつを召し上がれ」の中には、認知症の女性の話が描かれていました。ツバキ文具店では、ヒロインは亡くなった祖母の事をしばしば考えます。ライオンのおやつでは雫を通して、生きるとは、そして死とは…を考えさせられます。何気なく生きることの大切さを、その淡々とした話の中で鮮やかに彩ってくれているようです。

新井賞

小川糸さんの本なので、買う予定ではいたんですが、このオビがついているものが欲しくて、日比谷コテージさんで購入しました(笑)。

日比谷コテージに努めていらっしゃる、新井さんという書店員さんが、芥川賞・直木賞と同時期に、自分で読んだ中で一番と思える本に送られるもので…。
小説だろうがマンガだろうが、本当に面白いという本を選んでくださるので、読みたい本に困った時は、新井賞に選ばれた本を選ぶのも一考かもしれません。
新井さん、本当に伝説の書店員さんで、以前は三省堂書店に勤められていましたが、今は日比谷コテージに。彼女の推す本は本当に売れると評判で、作家さんなどにも信頼されている方です。
何回か日比谷コテージには行ってるのですが、残念ながらお会いしたことはなく…。
日比谷コテージさんも素敵な本屋さんで、本好きにはたまらない空間を作ってらっしゃいます。
…落ち着いたらまた行こう…。
日比谷コテージさんのサイトがこちら。日比谷シャンての2階にあります。

https://www.hmv.co.jp/fl/34/71/1/?