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炎環

再来年の大河ドラマが「鎌倉殿の13人」という事で、、久々に読みました。高校生の頃からの愛読書。今も敬愛して止まない永井路子先生の直木賞受賞作品。…冒頭から熱くなってます( 笑 )。

あらすじ

この作品は、長編とも短編集とも言える、ちょっと不思議な形態になってます。と、いうのも、永井先生の後書きにこんな一文があり、変わった意図があってこういう形にしたのだとわかるからです。

「この四編は、それぞれ長編の一章でもなく、独立した短編でもありません。一台の馬車につけられた数頭の馬が、思い思いの方向に車を引っ張ろうとするように、一人一人が主役のつもりでひしめき合あい傷つけあううちに、いつの間にか流れが帰られていく…そうした歴史というものを描くための一つの試みとして、こんな形を取ってみました。」

あとがき より抜粋

…なるほど。
ざっくり言うと、四編は連作のような、鎖が繋がるような、重なり、交わりあい、それでいて時間は進んでいくように描かれいます。つまり、それぞれの作品は同じ時間軸の流れにあって、主人公の視点を変えてその事件を眺め、巻き込まれていっているのです。…凄いなぁ。
では、どんな内容なのか、ざっくり紹介していきます。

悪禅師

主人公は阿野全成。頼朝の異母弟にして、義経の同母兄にあたる人です。幼名の今若という名前の方が有名かも…。
全成は兄弟の中でいち早く頼朝のもとに駆けつけます。その姿に頼朝は涙を流して喜ぶのです、が。全成はそれを冷静に受け止めて眺めています。
更に兄弟が駆けつけ、その中に義経もおり、彼らが西国へ戦をするために向かっても、何故か全成は選ばれず、頼朝の傍に息を潜めるように佇んでいます。僧侶だから戦は出来ない訳ではなく、僧兵として鍛えていた彼は少々不満でしたが、戦に出て活躍し、名前を華々しく呼ばれながらも、武家の棟梁となった頼朝の目の上の瘤となっていくのを冷静に眺め、どうこの世を渡っていくのか…という展開になっていきます。頼朝の妻・政子の妹の保子と結婚し、頼朝夫婦や北条氏とも繋がりをもち、地味ながらも鎌倉で淡々と過ごしていく。同母弟の義経の凋落、そして死も淡々と受け止めながらも、野望を描きたくなるような出来事が。
それは、政子の二人目の男児・千万の誕生。最初の男児である頼家が有力御家人を乳母としたために、御家人の中に微妙なバランスが生まれた事を反省したのか、身内になる全成と保子夫妻を一万の乳母にする。…もし、この子が頼朝の跡継ぎになるのなら…。

黒雪譜

主人公は梶原景時。義経を陥れた悪人として有名になってしまってますが、武士だけれど風流で歌を詠み、楽器も嗜む文化人でもあったりします。
頼朝が敗走し、景時はそれをおう中、旧知の土肥実平と出くわします。何も言わずに見逃した景時。その中に頼朝も居ることも気づいていながらも、わざと見逃した行為は、彼を幕府の中心に連れていきます。そして、頼朝に仕えて居るうちに、その表情の裏にある、〘 真の思い〙を察するようになります。それからは、頼朝の思うように言動し、それが時には他の御家人の反感を買うことも。しかし、景時はそれを理解しつつ、頼朝の思いを反映するかのように話し、動きます。そして、それが義経を追い詰め、平泉での非業の最期につながっていくのでした。が、頼朝の突然の死後、跡を継いだ頼家の乳母として、更に頭角をあらわそうとした時、同じく頼家の乳母だった比企能員と対立し、更に追い詰められ…。

いもうと

主人公は阿波局。保子という名前で、この物語は描かれています。政子の妹で全成の妻となります。そして、三代将軍実朝の乳母として彼を支えていく立場にありました。
妹たちがどんどん有力御家人に嫁いでいく中、彼女はそれを気にも留めずに…と見えるように、その結婚準備をしていました。ひと段落済んだ頃、姉の政子が保子に縁談をもちかけます。それが阿野全成。頼朝の異母弟だが、特に華々しい感じもしないその人に、保子はなんの疑問もなく嫁ぎます。
物語は政子と比較するように、頼家以降男児が生まれない政子をしり目に、数人の男児を産んでいったり、実朝の乳母となり、溺愛するようにかわいがるため、保子になついていく千万を政子はやきもきして観ていたりします。朗らかにおしゃべり好きとして、時にはそのおしゃべりがもとで、鎌倉を揺るがすような事件…頼朝の浮気から発した亀の前事件や、景時の凋落の遠因となる事態に発展したり。。します。
勝気な政子に対する保子の態度は果たして額面通りなのか。それは、夫の全成が謀反のかどで、頼家に捕らえられたころから見え隠れしていき…。

覇樹

主人公は北条義時。政子の弟で、第2代執権となります。北条氏が執権として活躍する礎を築き、その後の武家政権の基盤を作ったのですが…、学校の歴史ではあまりクローズアップされてくれませんね…。
彼は、必要な時に呼ぶがその場にいない。
それに対して父の時政はいらだち、期待はしていなかった。が、頼朝の挙兵後、北条家の嫡男だった宗時が戦で亡くなると、彼はその位置に立つことに。
そして、華々しい源平合戦の時には活躍はほぼなく、けれど、亀の前事件では父の時政に従わず、鎌倉に残った事で、頼朝の信頼を得ていたり、その動乱の時代をのらりくらりと過ごしていくのです。
そして、対する有力御家人を次々と追い込み、父である時政を追いやり、甥の実朝が右大臣となって、その報告を兼ねた鶴ケ岡八幡宮への参拝に付き従っていたのだが…。

激動の武士政権草創の物語

華々しい戦国時代や、その終わりの時の江戸幕府末…幕末と言ったら、鎌倉や室町の末期もあたるんじゃないのか?と毎回思っていたりします…に比べると、鎌倉時代というのはあまり目立たない…源平合戦は義経人気で結構はなやかですが…判官びいきで周りが悪役っぽくなってるからか、更にその人たちの周りにスポットが当たらない感じですよね…清盛や頼朝、景時も相当悪っぽくえがかれてきましたからね…。
ただ、この時代は本当は面白いんです。

戦国以上に武士同士の対立が激しい

この物語でも描かれていますが、頼朝の死後、若い頼家では頼りないと合議制が敷かれます。が、それはすぐに破られていくのです。それが景時の排除。そして、以降、頼朝の腹心ともいわれる有力御家人が次々と倒れていきます。
そして、そその中で台頭してくるのが、北条氏であり、覇樹の主人公である義時だったりします。
そんな時代にどういう事があり、どう彼だけ残っていくのか、それは…語りだしたら止まらなくなるので(笑)。ぜひこの本を読んでみてください。

実朝暗殺

永井先生、そして、この炎環を語る上ではここは外せないのが実朝暗殺。この作品、また、『北条政子』で永井先生はそれまでの常識だった、実朝暗殺の黒幕は義時説を覆すような説を発表します。それが三浦義村暗躍説。別当・公暁…暗殺の真犯人の乳母夫である彼が、その裏にいて、実朝及び義時の暗殺を試みた、というのです。が、義時は直前に急病と言って自宅に戻り、彼が行うはずだった役を代わりに行おうとした人物が殺されたのです。義時暗殺の失敗を知り、義村は公暁を見限り、彼を見捨てた、という説。今ではかなり有力説となっていて、そうった意味では、日本史を覆した作品ともいえるかもしれません。

後鳥羽上皇御謀反

日本史では避けて通れないのがその時代の皇室のありかた。今は象徴天皇制なので、国民の統合の象徴として、敬愛・尊敬されるお立場ですが、当時は朝廷の中心。ポッとでてきた武士がいきなり居丈高に自分たちの権利を主張しだしてきますが、一応日本の中心のトップな訳です。その方を「御謀反」として捕らえ、流刑にしてしまうのです。そんなの日本史でこの時代だけです。鎌倉時代末期にご醍醐天皇も同じことがありましたが、あちらは結局成功…その後まあ色々あって日本を二分する事態にしているので、アレですが自分たちが正しいと、鎌倉幕府を倒したので、天皇を謀反人として政権を勝ち取るのはこの時だけだったりします…。なのに…地味…。

その後の武家政権の礎

そして、承久の乱を経て、武士の政権が成立、その後江戸幕府が終わるまで、武士の時代となるのです。その時の制度を作っていったのは、この時代の彼らなのです。義時の死後、息子の泰時が御成敗式目を制定し、これが武家政権の基本の法律となっていきますし…。なのに…さらっと終わってしまう、歴史の授業(´;ω;`)。

…まだまだ語り足りないのですが、多分すべて話し出すと止まらないので…。また何かの機会に。

鎌倉殿の13人

冒頭でお話したように、2012年の大河ドラマはこの時代で、主人公は北条義時です。そして、早々に発表されたメインキャストの中に、この物語の主人公たちがいましたね。

https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/preview.html?i=26316

会見も面白かったですが。三谷さんの解説が的確かつユーモアがあって面白い…。

キャストは
阿野全成 … 新納慎也 
梶原景時 … 中村獅童 
阿波局  … 宮澤エマ
北条義時 … 小栗旬

さらに、他の現在発表されているメンバーがとてもわくわくされる方々なので、今から楽しみです。

そのほかの作品

永井先生は、歴史上の人物…とりわけ女性の視線から描かれているので、歴史ものとしても新鮮です。

『炎環』関連ですと、『北条政子』や『はじめは駄馬のごとく』をオススメ。北条政子は、岩下志麻さん主演の大河ドラマ”草燃える”の原作となってます。

大河ドラマつながりでは、毛利元就も原作のはず…。戦国時代もたくさん描かれていますが、『流星ーお市の方』や『乱紋』も面白いですし、写真には入っていませんが『姫の戦国』も。
そして、2020年の大河ドラマ『麒麟が如く』の主人公明智光秀に関連するならばこれですね。

光秀本人ではなく、娘のたま、こと細川ガラシャが主人公で、彼女の壮絶な最期には号泣ものです。
あ…これは2018年に、永井先生の古河の旧宅(公開されているのです、実は)を訪れたとき写真。細川に絡むから、と歌仙兼定の人形を一緒に映して楽しんでましたが…まさかその後、彼を主人公にした、ガラシャがからむ舞台・刀剣乱舞が製作されるとか思わなかった…です。コロナ禍で2020年は形態を変えてましたが。

話がそれてきてなんですが、この作品は、2022年に、再演というか…本来の姿で上演が決定しています。それまで予習にぜひ。