中央システム株式会社

もぎりよ今夜も有難う

個性派俳優の片桐はいりさんの、映画や劇場に関するエッセイ集。映画雑誌に寄稿されていたものをまとめられたもののようです。
タイトルも内容も、片桐さんらしい面白くて楽しい内容ばかりでした。

映画館のもぎり嬢

片桐さんが若かりし頃、銀座の映画館で”もぎり嬢”をやっていたことや、映画好きから、そんな時代のエピソードを書いて欲しいと出版社からお願いが来たそうです。
今ではあまり聞かなくなりましたね、もぎり嬢…。
映画館や劇場で、入場する際にチケットをもぎる人の事ですね。
今でもありますが(コロナ禍で、そういったもぎりの形態がだいぶ変わってしまっていますが)、言葉の雰囲気となんとなく違っていますね。
…そういえば、舞台も最近劇場窓口のお姉さんから購入する、なんてことしなくなりました…。ネットで購入して、コンビニで出力がほぼ主流ですねえ。
それはともかく。
この本では、そんな時代の面白い経験談がたくさん盛り込まれています。

もぎり嬢時代の経験談

片桐さんが有名になる前までやっていたそうですが。地元のとある映画館で、お正月に飛び入りでやっていたらしいですが、今もなのでしょうかね(笑)。
かきいれ時の正月映画のトラブルの話…。そういえば幼い頃は正月映画=寅さんのイメージだったのですが、松竹のドル箱長寿シリーズ、「男はつらいよ」の時は、当時は客性トラブルも色々あったようです。
シネコンが主流で、大体オンラインで席まで指定する今では考えられないですが、昔は映画館の席は指定席などはほとんどなく…椅子取りゲームでしたね。
なので、ゆったり座ってみるには混雑を避けて上映が終わりそうな頃を見計らうとか、穴場な劇場に行くとか、体力と運をかけるか(うまく座れる席を探してね、的な…)でした。
そういえば、この本でもちらりと出てきた「ハチ公物語」をお正月に立ち見で見た記憶が…小学生には足がつらかったですね…。
そんな状態でしたので、席を取られたとかなんとかでのトラブルも多く、それをうまくさばくのもお仕事だったとか。
勤めていた映画館が銀座だったことから、お客様には、著名な歌舞伎役者さんもいたそうで。
そこで席の件でもめた話とか…。もぎり嬢の意地が勝ったようです(笑)。

日本じゅうの劇場の話

ふとした旅先や、もちろんそれを目指してもあったりしますが、そこで出会った劇場の話もありました。
中には既に廃館となってしまった場所もあったり、諸般の事情ですでにその跡形もない場所もあったり。
小さな劇場や、そこで出会った方がたとの心温まるエピソードなど。
山形のとある 廃館 の跡地に行ったあと、立ち寄ったスナックのママが、その劇場でもぎり嬢をしていた話とか、少し運命的な話なども。
選ばれた劇場はみな、有名な所ではなく、意外な場所だったり、知る人ぞ知る…のような場所であったり…片桐さんらしいチョイスだなあと思いました。

サブタイトルも見事さ

本自体のタイトルもそうですが、雑誌掲載当時の回タイトルとなっていたであろうサブタイトルも、名画をもじったものばかりです。
もぎりよ今夜も有難う → 夜霧よ今夜も有難う
渡り鳥映画館へ帰る → 渡り鳥故郷へ帰る
転向生 → 転校生
愛と劇場の日々 → 愛と激情も日々
などなど…
エピソードももちろん、そのタイトルに合わせた妙…。さすがです。

映画がみたくなりました。

映画の内容などはなかったのですが(片桐さんが出演したとか、公開時の挨拶に登壇したといった感じの話はちらっとありましたが)、素敵なエピソード、楽しいお話を読んでいると、劇場に足を運びたくなります。
今は動画サイトやBlu-rayなど、映画を見るための手段はたくさんあります。だけど、映画は映画館で見るのがベストですよね。スクリーンでみるからこその迫力、あの空気感。
となりから香るポップコーンやフランクフルトの匂いとか(笑)、そういった、すべてのものが映画館を作っていて、そこで見るからこそ楽しいものもある、はずです。
そろそろ世間も落ち着いてきたし…脚をはこびたいものです。

この本との出会い

この本は、書店で眺めて選んだ…というわけではなく、池袋の梟書茶房さんで購入しました。


こちらの書店では、本をタイトルやあらすじで選ぶ、というのではなく、店員さんが書いたコメントを読み、そのフィーリングで選ぶ、という、ちょっと変わった本屋さんです。
なので、本はオリジナルのブックカバーで表紙が隠されています。


そういった選びかた、面白くて、何度か足を運ばせていただきました。
やっぱりコロナ禍でこちらもご無沙汰してます…。落ち着いたらまた行きたいです。
行く時間が良くないのか、いつも茶房のほうが込み合っていて…いつかパンケーキを食べながら購入した本を読んでみたいです。