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風の墓標

毎年五月になると読むのが習性になってる本があります。特に五月九日は…。

あらすじ

舞台は鎌倉時代末期。主人公は北条氏の名門赤橋家の四郎。世の中は、執権である高時の政務を忘れての田楽や闘犬ぐるいに顔をしかめていた。そんな折、四郎は所用で京に向かい、そこでかつての初恋の女性と再会する。様子のおかしい彼女から、事情を聞くと、夫が浮気をしているのでは、と悩んでいた。四郎はそれなら、とその浮気が本当かどうか調べてあげる、と約束。そして、夜に出歩く夫…土岐頼員をつけていくと、それは、女性を侍らせての倒幕計画の企てを建てているところだった。四郎は頼員を説得し、その企てが表沙汰になる。それは、時の帝、後醍醐天皇を中心としたものであったが、この時はのらりくらりとかわされ、企ての主要と見なされた公卿などが断罪された。四郎はその様子を見て、幕府への危機感を募らせる。また、鎌倉では、その対応の横柄さいい加減さに、四郎の友人、北条仲時も忸怩たる思いをしていた。この流れをなんとかしないと、という二人の願いはなかなかうまくいかない中、数年が経過。幕府の京への要となる六波羅探題の交代の話がでる。新しい北方へは仲時が推挙され、その報告に行くと、そこには、初恋の女性に似た女性がいた。それは仲時の腹違いの妹で、四郎は心を惹かれる。二人の間を心配しつつ、仲時は京に赴く。そして、もう一人の友人、足利直義もまた、幕府に不満を募らせていく兄達に振り回され…。

初めから『終わり』が見えている話

あらすじは途中までの話しをざっくりかきましたが、ぶっちゃけて言えば、結末は『鎌倉幕府の滅亡』なんですよ。だから、登場人物の結末は言わずもがな。だって、ほぼ教科書などに載っていますから。
四郎は、作者である湯口聖子さんが、系譜から「おそらくいたんじゃないか」的なほぼフィクションなんですが、赤橋の家の人、といえば、色々お察しですし。
仲時は、倒幕時に真っ先に狙われ…倒幕派の最前にいたのだから、当たり前…、命からがら脱出したけれど、今の滋賀県米原市付近で力尽き、自害します。これが五月九日…。私は北条氏大好きで、最推しは仲時…なので、毎年この時期は胸がチクチク…。
直義は、親友の仲時に刃を向けるという事をしますが、その覚悟で鎌倉幕府滅亡後、新しい時代を作るべく奮闘…が、兄の尊氏と対立、病死なのか暗殺なのか…謎の死をとげます。ちなみに、この辺りを詳しく知りたい場合は、先年ブームになった『観応の擾乱』という本をオススメします。
鎌倉幕府は、新田義貞の進軍に追い詰められ、五月二十二日に滅亡。本家である高時は、鎌倉の腹切やぐら付近で自決…。1333年の事です。語呂合わせだと『一味散々 北条氏の滅亡』で覚えますね。…なんて語呂合わせ…。

お話のその後

『風の墓標』は『夢語り』というシリーズの仲の一つになります。仲時の息子、友時の話は『風の墓標』五巻に掲載され…涙なくしては語れない話になってます。号泣します。直義さんがひたすらしんどいです。思い出しただけで涙が…。
また、高時の息子、時行の話は『明日菜の恋唱』という一冊に。シリーズのラストになります。
時行は『中先代の乱』として、教科書にも載ってますね。
と、いうのがお話としてのその後です。
歴史的には、南北朝時代にはいり、日本中が大混乱していく時代…。尊氏・直義兄弟の確執からの観応の擾乱…60年の混乱の後の統一。
色んな人が南朝と北朝を行き来するので、混乱しますが、そんな人間くささもまたこの時代の魅力。…なんですが、その後の応仁の乱からの戦国時代のほうが人気で…関連書籍が少ないのが悲しいです…。

夢語りシリーズ

湯口聖子さんの北条氏への愛が詰まったような、鎌倉時代の勉強も出来る、そんなシリーズです。特に、シリーズの一番の主役、北条時房の話を読むと、北条氏がいかに細腕一本でのしあがったのかという政治力の凄さが分かります。教科書では数行で終わる話ばかりですから。
また、湯口さんは、商業誌で完結後、自費出版で何作か書かれていまして。
今はネットでポンとできますが、当時は手紙のやり取りで購入…。直筆のお手紙は、今でも宝物です。だって、添えられたメッセージが本当に優しくて、フレンドリーで。…不便だったけどよい時代でしたね…←
今は…どうされてるのか。ただ、この時代、秋田書店では歴史ものの少女漫画がかなりあり、それこそ古代から戦国まで…胸が熱くなるお話が多かったし。その中でも夢語りは、本当に素晴らしかった…から、秋田書店さん、文庫版お願いします。