中央システム株式会社

わたしの美しい庭

今年一気に読んでいる凪良ゆうさんの作品の三冊目。多分一番平穏…いや。まあ普通とはまた違うけれど、今まで読んだ二冊のインパクトがインパクトだっただけに…だった作品でした。人の幸せはそれぞれ違うものです。

あらすじ

とある地方都市の、よくあるマンション。小学生の百音は亡くなった母の元夫の統理と暮らしていた。統理はマンションの管理人と屋上にある神社の神主をしながら、翻訳家の仕事をしている。朝は統理の友人でゲイの路有が、露店でやっているバーの仕事を終えたあと、作りに来てくれ、ファッションが大好きで、誰と誰が付き合ってるという話題や、朝が弱くてつらいと愚痴ったりする日々を送っている。
マンションにある神社は縁切り神社として有名で、時々何かの縁を切る為に色々な人が訪れる。神社の周りは美しい庭園となり、マンションの住人達の憩いの場ともなっている。
そんな神社と庭園が舞台の、三人の人物の縁と縁切りに纏わる物語…。
一人目は、マンションの住人の桃子。アラフォーの医療事務を仕事としている。仕事ではそれなりのポジションにいるのだが、人間関係に悩み、家に帰れば結婚の話で頭を悩ます。そんな桃子には、高校時代に付き合っていた男の子がいた。百音から浴衣を着て花火をしようと提案され、箪笥にしまい込んでいたその頃に買った浴衣を取り出し、彼のことを思い出す…。
二人目は路有。思春期の頃には自分がゲイだと自覚していた。両親が教師で堅い性格なため切り出しづらかったか、ある時カミングアウトする。案の定、両親はその事実を受け入れてはくれなかった。更に四年前に、同棲していた恋人が、いきなり女性と結婚するといって、家を出ていってしまう。そんな絶望的な事があるたびに、統理は手を差し伸べて助けてくれ、今はマンションに部屋を借りて住んでいた。そんなある日、統理を経由する形で、かつての恋人からハガキが届く。内容は平凡そうに見えたが、かつて二人で見ていた映画のデザインのハガキに、何かを察した路有は、書かれていた住所を頼りに、彼の住む場所に向かう…。
3人目は基という青年。有名な建設会社に勤め、休みもなく怒号うずまく場所で精神を病んでしまう。会社を辞めて、実家で療養をする事になる。少しずつ鬱も改善し、ゆりもどしに気をつけながらも、心療内科に通っていると、その病院で医療事務の仕事を始めた、亡くなった兄の恋人と再会する…。

人には人の事情がある

登場人物はそれぞれに事情があります。
百音と統理はなさぬ仲の親子。路有はゲイ。桃子は忘れられない恋、基は鬱…。普通に生活している人には、ちょっと理解しづらい事情をそれぞれに持っています。
それらは周りからみたら「可哀想」とか、「どうして?」とか言われるような事ばかりなのですが、ただ、そんな自分たちの安易な物差しで観ていていいのだろうか…そう考えさせられました。
百音と統理は、実際血がつながっていません。百音もそれを知っていますが、彼女はそれを不幸とは思ってません。まあ、統理が自分の好みを理解していなくて、怒ることはありますが、ちゃんと親子ですし。
統理も、別れた妻が離婚後に、別の相手と再婚し、その間の子が自分が引き取らないと施設に入ると知って手を差し伸べて、生活が変わるから、と両親を頼って今の生活をする事になってますが、それについては全然おかしいと思っていません。未練とは違いますが、別れた妻を今でも大切に思っていたり…。
そういう事がじゃあ不幸かというと、違うと思うのです。
人には人の事情があり、それはその人が納得していれば、それでいいんじゃないか。
メインのこの二人がこうだから、回りも自然とそう思い、それがうまく連鎖して、他の3人が自分の道を選んでいくのが面白かったです。
よけいなお世話」…ラストシーンのとある部分のこの一言に、うんうん、とうなずいてしまいました。まあ、結論はそれなんですよね。
個人的には、路有のエピソードが好きです。人を客観視しているようで、お人よしな路有らしい話というか…。

3冊読んで

今年、すっかりはまってしまった凪良ゆうさん。これで3冊目です。この時代らしい、混沌とした世界の単純なようでいて、複雑な人間関係を、普通ならあまりあり得ない関係性から描いているように感じました。
最近出たばかりですが、次の作品が楽しみです。

余談ですが、この「わたしの美しい庭」は、冬バージョンの装丁もあります。そちらもとても美しいものでした。メインに使われている青がとても好みで…こちらも欲しくなりました。

本はやっぱり装丁も楽しむものだと、つくづく思いました。