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夜空に泳ぐチョコレートグラミー

一度とある作家さんにハマると、本屋を駆け回って集めてしまいます。本好きあるある(笑)。
今の私はそれがこの町田その子さんです。この本はデビュー作を含む短編集でもあり、5本の連作でもあります。
本屋大賞の常連さんにもなりつつある作家さんですので、その力量はデビュー作から発揮していますね。一気に読んでしまいました。

様々な人々が繋がり紡がれていく物語

5本の作品はそれぞれ主人公が異なります。場所も大体同じですが、場合によっては違う。でも登場人物が混じりあい、重なりあっている。時系列も違うけれど、繋がっている。なので、読み終わった後は1作の長編の物語を読んだような気持になります。

カメルーンの青い魚

デビュー作で、R-18文学賞受賞作品でもあります。シングルマザーの母親が自分の母親、つまり祖母に自分を預け行方知らずに。それからずっと祖母のもとで育ったサキコ。近くにあった孤児院の友達との方がウマが合うと思いながら、青春期を過ごす。そして、そこにいた「りゅうちゃん」に惹かれていくが、彼は少々問題児で…。
そして、育ての母である祖母が突然亡くなり…。
冒頭に出てくる少年「啓太」が実は…は、読んでいて大体お察し…な展開なのです。が、サキコとりゅうちゃんの関係がわかっていても切ないし、少々色っぽい感じはあるのですが、寂しさと余韻に浸れる短編でした。

夜空に泳ぐチョコレートグラミー

1作目で登場した「啓太」の物語。シングルマザーに育てられた中学生の彼は、とある理由から学校から許可を取り、新聞配達のバイトをしていた。そのバイトで行く先にはクラスメイトの「晴子」がいた。彼女もまた、家の事情から祖母に育てられているのだが、その祖母が最近認知症を患ってしまった。そのため、晴子は遠戚に預けられる事になる。そして、啓太もまた、自分の母親やあった事のない父親の事を考えるようになる。
なんでもできるようでいて、何もできない。そんなもどかしい中学生という立場にいる主人公たち。色々変わっていていも、自分が生まれて一番最初にぶつかる、難しいコミュニティの場でもあるんですよね、中学って…。

波間に浮かぶイエロー

恋人を亡くしたあと、ひょんなきっかけからゲイ…『おんこ』の芙美が経営する喫茶店で働くことになった沙世。そこに、芙美が「重文」という男性でいた時代に同僚だった妊婦の環がやってくる。いろいろと訳ありのようだが、なかなか心を開かず、どう扱っていいのか困惑する。
大人になって、色々あって、年を取って…。その中で人生に絶望する事がある時、頼れる人がいるのはいいなあとも思いました。ただ、その後の意外なバックボーンがあって、そこがちょっと驚きでした。

溺れるスイミー

工場勤務の唯子が主人公。同僚からプロポーズされ、はたから見たら安定した幸せな立場にいそうな唯子だった。だが、自分の中には幼い頃別れた父親のように、ひとところにとどまれないような、不安定なところがあった。ある日、ダンプの運転手をしている宇崎と出会う。時々、周りの束縛から逃れるように、宇崎に色々な場所に連れて行ってもらっていたが…。
コミュニティーの中にいて、でも、その中に納まることができない。それも個性ではあるのですが、それを肯定する社外ではない場所で育ってしまった主人公のもがきとか苦しみとか、色々考えさせられました。ラストの決定に、本当にいいのかなあと、ちょっと第三者の目で見て思いましたが…。

海に浮かぶ

子供の流産後から、夫のモラハラを受けていた桜子。さらに、体質なのか、子供を自らのお腹で育てることをできない自分に絶望。そんな絶望でふらふらと病院から出たときに清音という男性と出会う。止まらないモラハラと暴力に耐えきれなくなった桜子に、清音は手を差し伸べて…。
最後の話ですが、一番重くてつらいテーマでした。ラストは、この連作の最後らしく、綺麗に、そして、ああそうなのか、と納得する感じでした。
テーマは辛いですが、この作品が最後の話でよかった。

自分の居場所探し

この作品だけではないですが、町田その子さんの作品は、テーマ的に「私の居場所を探す」がバックにあるような気がします。それから、母と子供の関係…それが辛くであったり優しくあったり…。そういった人間関係の中で、「私」は「ここにいるべきか?」を考えます。
サキコと啓太の母子の関係、そして、父親の存在…。父を探す為にこの場所を去るか、ここに残るべきか…。サキコは一人で悩んでいますが、その悩みを啓太は気づいています。男子中学生の空気読み能力を侮るべからず。
啓太はその他にも、クラスメイトの女の子の複雑な家庭環境を知り、そこから自分がどうすべきか、考えていますが。
サキコやそのクラスメイトだけでなく、啓太自身も自分の居場所を探している一人だったのかもしれませんね。

自分の居場所=幸せのありか

この物語はミステリーのような、犯罪が起きるわけでも、命を運命を賭けるような大恋愛の話でもありません。
まあ、あまりあってほしくはない形のシングルマザーとか、ネグレクトとか…ではありますが。
ただ、自分が穏やかに幸せになる居場所を探し、そこから出るのか、そこがその場所になる、またはしてみせるといったようにとどまるのか。はてまた、とどまるか去るのか悩むのか…。
フィクションの話ですが、結局私もですが、自分が自分らしくいられる居場所を探し続けているのかもしれませんね…。
生活する場所とか職場とか…。

こちらもオススメ

町田その子さんの作品はどれもオススメです。まだ未読の本がありますので、私も色々読んでいきたいと思います。

おまけ。その他にもこんな本を読んでますので、一緒にいかがでしょうか?