中央システム株式会社

あなたは、誰かの大切な人

原田マハさん、以前からちょっと気になる作家さんだったのですか、ようやく読めました。

どんな内容?

数篇の短編集となっていて、アラサーからアラフォーの独身女性が主人公。様々な出来事から、大切な(だった)人を思い出す、というコンセプトで集められています。
母の葬式にも参列しないフーテンの父。母はどうして父と離婚しないのか。
年の離れた海外の友人と、亡くなった御主人との絆の物語。
昔の同僚との命がかかった絆など、話は様々ですが、心にじんわり来るものばかりでした。

ここが気になった

原田マハさんは初めて読んだのですが、巻末の解説を読んで、なるほど…と思いました。
建設、音楽、絵画…ジャンルは色々ありますが、芸術要素がうまく組み込まれています。
最初の話は、美容師だった母が亡くなり、その告別式の話。本来喪主となる夫である父がおらず、主人公が喪主となるかどうか、とザワつく所から始まります。皆が父を非難するなか、主人公は母にとって、自分にとってどういう存在だったのか、という回想を始めます。父親はいわゆる「ヒモ」で働かず、主人公と妹は母が細腕ひとつで育ててきた。
陽気で人当たりのよい母は、亡くなった時、常連客などたくさんの参列者が来てくれる。同じ仕事をする自分には、そういう事になるだけのものがあるのか、と考えたり。
ヒモな父は、いわゆるイケメンで、それを目当てに来たとあっかけらかんと話す常連客の話に、確かに自分もそんな父が自慢だった頃があった、というのを思い出したり。
ようやく来た父に、ついキレて何故見舞いに来なかったか、と罵ると、母が絶対に来るな、と言っていたとそこでわかったり。昔から顔にコンプレックスがあった母は、父や娘の前でも必ず化粧した姿でいたことも、思い出して。すっぴんで、横になる、みずぼらしい姿は絶対に見せたくなかった、という母のプライドを思い、複雑になります。
そして、父の、母の思いが分かるラストシーン。母を見送る所で流れるのが越路吹雪の「ラストダンスは私と」。コーちゃん(越路吹雪)が好きだから、似ているから結婚しようがプロポーズで、最後はこれか…と、感動しました。
タカラヅカヲタでよかった…。越路吹雪もこの曲も、この年齢でも分かる位の知識ができたから(笑)。好きな曲でもありますから。

この話を含め、何篇かは老いた親との向き合い方ではないですが、亡くなった、老いを感じた、そして痴呆症…。離れて暮らしたり、仕事をしていたり…親との生活スタイルが変わっている中で、どう向き合うか、それを考えさせられました。
主人も私も両親はまだ健全で、それぞれ暮らしてますが、私は弟も含めて今後は背負わなくてはならないし、主人のほうは…どうなのか。末っ子だけど、色々なことを考えると、我が家の負担はどうなのかなぁ…とか、つい考えてしまいました。
これはあくまて小説であるし、結論は出さずに終わってます。問題提起的に描かれている訳では無いので、そこまで深く考える必要はないのかもしれないのですが、主人公たちが同世代なので、感情移入してしまうのかもしれません。

他には

とにかく博学。
メキシコやトルコなどの異国文化、現代アート…短い話ながらも、モチーフにするために色々細かい所まで理解できているから描けるシーンも様々ありました。
そして、登場人物が皆、優しい。確かに複雑な気持ちのもありますが、読んだ感想か柔らかい暖かい本だったと、そう思えるのは、話を構成する主要人物たちが、優しいからだったなんじゃないか、と。
だから気持ちよく読めたのでしょう。
特に事件か起きたとか、何かうねりがあるようなドラマチックさとか、そういう華々しい話ではありません。本当に身近で自分も含めて、誰かが経験しうるような話ばかりですが、だからこそ、色々深く考えさせる、そんな一冊でした。